マンションの駐輪場に放置された住人以外の自転車は撤去してよい?
マンションの駐輪場における放置自転車の増加には、住人が新しい自転車を購入後、古い自転車を放置することや、住人以外が駅の駐輪料金を避けるために一時的に駐輪するなどの理由があります。
これに対処するため、駐輪エリアの割り当てやオートロックの設置が効果的です。しかし、勝手に放置自転車を撤去すると「占有離脱物横領罪」や「器物損壊罪」に問われる恐れがあるため注意が必要です。
目次
放置自転車が増える理由
以前からマンションの駐輪場に所有者不明の自転車が放置されるケースがたびたびありました。近年では、ますます自転車を放置するケースが増加しており、深刻になっています。では、なぜ放置自転車が増加しているのか、原因からみていきましょう。
◇住人の持ち込みによる増加
マンションの住人や以前に住んでいた住人が放置して行くケースが原因のひとつです。現在でも住んでいる住人の場合、新しい自転車を購入して以前に乗っていた自転車はそのまま放置しているケースも少なくありません。放置されたままになると共同スペースの浪費につながり、共同スペースの利用に影響が出る恐れがあります。
すでに退去した住人の持ち物であった場合も、敷地内にずっと残ってしまうため、現在住んでいるマンション住人のスペース利用に支障をきたす可能性が高いです。
◇住人以外による違法駐輪
マンション住人以外でもマンションの敷地内に乗り捨てたり、一時的に駐輪して行くケースも非常に多いです。駅に駐輪する場合、基本的に利用料金がかかります。その料金を抑えるために駅の近くにあるマンションの駐輪場に一時的に駐輪して行くケースも多いです。
また、自転車を処分する際は、基本的に処分する費用も手間もかかるため、マンションの駐輪場に捨てていく人も増えています。
住人以外の自転車なら撤去してもよい?
マンションにある放置自転車は、マンション住人や管理人からするとスペースを占拠されているため、撤去したいと思う方も多いです。しかし、勝手に撤去してしまうと、次の2つの罪に問われる恐れがあります。
◇占有離脱物横領罪
まずひとつ目の罪が「占有離脱物横領罪」です。正式には「遺失物等横領罪」と呼ばれており、刑法254条では「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」と定められています。
ここでいう「遺失物」とは、占有している人の意思に関係なく、その人の手元から離れ誰も占有していない状態のもののことです。分かりやすい例では落とし物やゴミ捨て場にあったもの、道端に放置された自転車が遺失物に該当します。
つまり、マンションの駐輪場に放置された自転車であっても勝手に撤去すると罪に問われ、1年以下の懲役または10万円以下の罰金、科料の支払いを命じられる可能性があるため、勝手に撤去しないようにしましょう。
◇器物損壊罪
放置自転車を勝手に撤去すると「器物損壊罪」にも問われる恐れがあります。器物損壊罪とは、故意に他人のものを壊す、または使えない状態にする行為に適用される犯罪です。
刑法261条では「他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」と規定されており、占有離脱物横領罪よりも刑罰が重くなります。たとえ放置された自転車であっても勝手に撤去してしまうと刑罰に問われてしまうため、所有者の特定など事前調査が必要です。
◇事前告知後の撤去もグレー
事前告知後の撤去であっても撤去する権限が与えられたわけではありません。事前告知をした上で、勝手に別の鍵をかけて動かないようにする手法もありますが、器物損壊罪に問われる可能性もあります。どちらにしても勝手に撤去する行為は避けたほうがよいでしょう。
住人以外の放置自転車を減らすには
マンション住人以外に自転車を放置させないためには、対策を考えておくのが重要です。有効な対策には、次の2つの対策があります。
◇住民の駐輪場割り当てを決める
駐輪場が自由に駐輪できるようになっている場合は、自転車ごと駐輪エリアを指定して、駐輪できるエリアを制限する方法が有効です。マンション住人に所有者ステッカーを配布して貼ってもらうことで所有者を明確にでき、放置自転車や本来停めるべき場所に停めていない住人を特定できます。
ただし、ステッカーに部屋番号を記載してしまう形にすると、プライバシーの観点から敬遠される可能性が高いです。そのため、部屋番号以外の番号を割り当てて、所有者の部屋番号は管理人・管理会社や管理組合が把握できるようにするとよいでしょう。
◇住人以外の人が駐輪場へ入れないようにする
住人以外の自転車の放置を防止する方法として、駐輪場に住人以外が侵入できないようにする手法も有効です。マンションと駐輪場の間、駐輪場とマンションの外との間両方にオートロックを導入することで、マンション住人以外が駐輪場に侵入できなくなります。
外出する際に複数のオートロックを解除しなければならなくなるため、出入りが面倒になってしまいます。しかし、その分セキュリティ面を強化できるのが利点です。
放置自転車への対処
長期間放置されている自転車がある場合、駐輪スペースの圧迫だけでなく、防犯面での不安や見た目の悪さなど、さまざまな問題が発生します。だからといって勝手に撤去してしまうと占有離脱物横領罪(遺失物等横領罪)や器物損壊罪に問われる恐れもあるため、安易に手出しできません。
正しく撤去するためにも撤去手順や回収先について知っておくのが重要です。
◇撤去の流れ
放置された自転車を撤去する場合は、事前準備と周知〜対象の自転車のタグ付け・情報を記録、警察へ届出〜撤去・処分の順で行い、最後に記録を保管しておきます。具体的な手順内容は次のとおりです。
・事前準備・周知~対象の自転車にタグ付け・情報を記録
事前準備・周知では、マンションの全住人・区分所有者に放置自転車の撤去を、掲示板への掲示またはチラシを配布して通知します。通知する際は、撤去の実施日・対象の自転車の特徴・撤去を望まない場合の申し出の方法の3つを明記しておくことが重要です。
住人などに周知した後は、対象の自転車に撤去予定日を明記した警告タグを付けます。タグは、所有者が気づきやすい色や文字の大きさにするのがポイントです。また、放置されている証拠写真や自転車の防犯登録番号などを控えておくと、警察に相談する際などに役立ちます。
・警察へ届出~撤去・処分
警告期間が過ぎても撤去されない場合は、警察へ届け出なければなりません。警察では防犯登録番号を基に照合を行い、盗難された自転車でないか確認を行います。万が一、盗難された自転車だった場合は、警察を通じて所有者に返還されるのが一般的です。
それ以外は、警察から撤去の指示が出されるため、指示に従って撤去・処分を行います。撤去は回収業者に依頼して完了です。撤去費用は貸主または管理組合が負担します。
撤去・処分が完了したら、万が一、トラブルが発生した際に対処できるよう警察へ届け出た記録や指示内容、証拠写真などを記録・保管しておくのが重要です。
◇回収の依頼先
放置自転車は、不用品回収業者や自転車専門の回収業者に依頼すれば撤去できます。回収費用は1台数百円〜1000円ほどが相場です。業者によっては無料で回収しているケースもあるため、調べておくとよいでしょう。
多くの業者は、タイヤがない自転車や壊れている自転車など、状態が酷い場合でも回収してくれます。ただし、中には自転車の状態によって回収できないと断られるケースもあるため事前に確認が必要です。
マンションの駐輪場における放置自転車の増加は深刻な問題となっています。主な原因として、住人が新しい自転車を購入した後に古い自転車を放置するケースや、すでに退去した住人の自転車がそのまま残されることが挙げられます。
また、駅周辺の駐輪料金を避けるために、住人以外がマンションの駐輪場に無断で自転車を一時的に駐輪したり、処分費用を節約したりするために違法に乗り捨てられるケースも多くなっています。
放置自転車の撤去には慎重な対応が求められます。無断で撤去すると「占有離脱物横領罪」や「器物損壊罪」に問われるリスクがあり、特に住人以外の自転車であっても勝手に処分することは法律で禁止されています。
したがって、撤去する際にはまず事前に住人や所有者に対して告知を行い、警告タグをつけた後に警察へ届け出る必要があります。警察は自転車の防犯登録番号を確認し、盗難車両かどうかを調査した上で、撤去の許可を出します。その後、専門の回収業者に依頼して自転車を撤去しますが、撤去費用は通常、マンションの管理組合や所有者が負担します。
放置自転車を未然に防ぐ対策として、住人に駐輪スペースを割り当て、所有者ステッカーを発行して管理する方法や、オートロックを駐輪場に導入して外部の人が勝手に駐輪できないようにする対策が考えられます。撤去後のトラブルを避けるためにも、撤去の証拠や記録をしっかりと保管しておくことが重要です。
このように、マンションの放置自転車問題を解決するためには、適切な手続きと対策を講じることで、住環境を保ちながら問題を円滑に処理できます。